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編者の属する徳之島郷土研究会は、昭和41年に結成された。爾来会では毎月例会を開いて、細やかながら調査研究の成果を発表し記録して、会員相互の批判と検討を重ねてきた。この中で特に民謡や民話など、口承文芸の聞き書きの際、抵抗のあったものの一つに不可解な方言があった。
徳之島の口説では「メワラビ イチバンヤ デンギンガメ」(女童で一番?)。「ムゾイナ トミセンシュウ ハカカヨテ」(?富仙墓に通って)。「カミト ギシトヌ ナイヌナルカ」(天上の神と?とどうして結ばれようか)。などの?の部分が解せなく立ち往生したが、幸い古老の示唆によってやっとこさ通解が可能になった。この類いのつまずきは他の分野においても例外ではない。
このような中で、以前からもやもやしていたものが急に爆発したかのように、この方言集と取りくむことになった。とはいっても方言に関する文献の少ないことと、地域や部落によっても方言は異なるなど、とかくここ数年の間は悶え呻くのが関の山であった。
それに編者は島に生まれながら方言には疎く、語法や表音記号による表記にいたっては誠に幼稚である。従ってこの方言集は公にするほどの著作でないことを万万承知しながら、敢えてここに産声をあげたのである。常に編者の胸中にあるのは、方言と方言文化が消滅しつつあるという事実に対する腹立たしさから、採集可能な方言を記録し後世に残すことであります。それぞれの土地の人々のものの”見方、考え方、感じ方”などを育ててきたのが方言であり、この方言こそ掛け替えのない地域の生きた文化財だと思うことです。
今や共通語は早いテンポで浸透しつつあるが、逆に方言は消滅寸前にあるといえよう。この方言集は斯かる逆境の中から生まれたもので、いわば未熟児の類いでありますが、編者の細やかな展望として、方言文化の開発のために何時の日か”表音記号による表記””語法による分類””対話文体の記録”など、島一円にわたって”方言集成”ができたらと念じています。ご意見やご批正を寄せていただければ幸です。
昭和50年10月20日
徳富重成(鹿児島県大島郡徳之島町亀津にて)
略記号 | 内容 |
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萬・万 | 万葉集は最古(5~8世紀)の歌集で、成立年代、編集とも不明 |
古 | 古事記-712年(和銅5年)作で最古の歴史書 |
世間胸算用 | 1692年(元禄5年)井原西鶴作 |
民・民謡 | 奄美・徳之島民謡、俗謡、古謡、俗言 |
俚・俚諺(テイキバナシ) | 諺語で教訓や風刺をふくんだ文句 |
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